読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

毎日がひとりオフ

ネットの話題とITと音楽。

読書感想文「困ってるひと」大野更紗

技術がどんだけ発達しようが、医学がどれだけ進歩しようが、治せない病はこの世にまだたくさん存在します。

人はそれを「難病」や「不治の病」と呼んだり、国からは「特定疾患」という名称でお墨付きをもらったりします。

「困ってるひと」は、そんな「難病」にある日突然に罹患してしまった大野更紗さんという女性が、発病から入院、治療、そして退院後の自立までを描いたノンフィクションです。

困ってるひと (ポプラ文庫)

平成23年時点で、国から特定疾患と認定された人の数は778,178人。

難病情報センター | 特定疾患医療受給者証交付件数

同年の国内総人口は、1億2779万9千人。

統計局ホームページ/人口推計/人口推計(平成23年10月1日現在)

単純計算すると、日本の0.6%、1000人中6人は特定疾患を抱えてることになりますね。

大野さんは、そんな 6/1,000 のくじを引いてしまった一人。 突如襲ってきた病魔との戦いを、いたってカジュアルな、読みやすい口語調の文体で綴られています。

大野さんの敵は、病魔による苦痛だけではありません。 難病に対する人々の認識や、社会の制度、そして何より、自分で何ができて何ができないかといったことまで様々。

難病や重傷、障害を抱える人と接するとき、病を持たないぼくらは「かわいそう」といった憐憫を相手に向けます。 でも、こんな想いほど、その相手にとって迷惑なものはないと思います。 相手を「かわいそう」と思うことは、自分が相手を上から、しかも他人として見ていることに他ならないからです。

でも、出会った相手に対し、何らかの印象を持ってしまうことは仕方ありません。 ぼくはそんなとき、病もケガも障害もその人の「特徴」であるとした上で、「大変そうだなぁ」と考えるようにしています。 いろいろ大変なことを抱えている相手なら、何か手伝えることはないかと模索できるからです。

本書でも描かれている通り、難病・障害を持つ方を支援する制度が、国・自治体によって用意されているのですが、そのサービス内容・品質は自治体によって大きくことなります。 そして、その認定を受けるまでにかかる手続きも、書類、書類、書類と、ひたすら書類の山と格闘。 体を動かすことすら難しい大野さんは、持てる力の限りを尽くして、お役所との格闘をこなしていきました。

本書を読んで、大野さんを「かわいそう」と思う人は、案外少ないんじゃないかなぁと思います。 もちろん、文中では苦痛に対する素直な気持ちも綴られていますが、それらも極端に大きく語らず、どちらかといえば、少しおもしろおかしい描写にされています。

推測ですが、これは読者に対する大野さんの配慮ではないでしょうか。 難病を抱える人間に対して、憐れみを持つことは簡単。だけれど、誰かにどんなことをされるとありがたいか、そのとき自分がどんな感情になったかを綴ることで、読者の「認識」を変えたかった、そんなふうに受け取れました。

難病は、罹患した本人だけではなく、その周りにも負担を掛けます。 残念ながら、こればかりはどうしようもありません。 ならば、いかに本人が、周りが、その病気とつきあっていくか。 お互いに暮らしやすい環境を、土壌を作ることが、双方のQOL*1向上につながっていくのではないかと感じました。

ノンフィクションですが、非常に読みやすい一冊でした。

困ってるひと (ポプラ文庫)

困ってるひと (ポプラ文庫)

*1:Quality of Life、人生の質。医療はこの向上のために存在します。